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一夜賢者の偈

一夜賢者の偈

過ぎ去れることを追うことなかれ。 いまだ来たらざることを念うことなかれ。

過去、そはすでに捨てられたり。 未来、そはいまだ到らざるなり。

されば、ただ現在するところのものを、 そのところにおいてよく観察すべし。

揺らぐことなく、動ずることなく、 そを見きわめ、そを実践すべし。

ただ今日まさに作すべきことを熱心になせ。 たれか明日死のあることを知らんや。

まことに、かの死の大軍と、 遭わずというは、あることなし。

よくかくのごとく見きわめたるものは、 心をこめ、昼夜おこたることなく実践せよ。

かくのごときを、一夜賢者といい、 また、心しずまれる者とはいうなり。

増谷文雄 訳

 

これは経典に記されたお釈迦様の言葉の一部分です。

「過去の経験にも、まだ訪れていない未来にも、気持ちを振り回されてはなりません。 私が生きる〈今〉この時に集中し、大切に過ごしていきなさい。」といったところでしょうか。

「確かにその通りかもしれない」と思う一方、「実際にそのように生きるのは難しい」と思うかもしれません。 重要なのは「今、このときの〈私〉に気づくこと」。過去に縛られ、未来への不安を感じざるを得ず、今を見失っている〈私〉。過去や未来にとらわれ、今を大切に生きることのできていない〈私〉に気づくことが最初の一歩なのではないでしょうか。

とらわれている私に気づくことは、とらわれている私と距離を置く一歩です。とらわれていた今までの私と距離を置くことは、今までとは異なる私の生き方を見つける可能性を秘めた一歩です。

たとえ結果が変わらずとも、それでもなお、その現実を引き受けて生きていくための一歩です。

そのように考えると極めて重要な一歩であるように思われます。 どうか今日も一日大切にお過ごしください。合掌

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